2016.12.09

工藤隆雄■マタギ奇談

20161209

 「昔はよかった。今では無駄な道路ができたりしてろくなことはない。白神がズタズタにされました。さらに数年経ったら、世界遺産にでも指定され、いろいろと制約が出てさてマタギがでなくなる日が来るかもしれません」

  まさかと思った。大昔からここに住み、マタギをやってきた人はどうなるのだろう。男はマタギ小屋も撤去されるだろうといった。

「いくらなんでもそこまでしないでしょう。千年、いや縄文の昔から続いてきた日本の文化ですから」

 「いや、やりかねない。国は、自然を守るというのは、誰も入れないことと思っている。〔…〕机の上で考えているから見当違いなことばかりやっている。

 我々地元のマタギに話を聞こうともしない。白神が荒廃しないで今もあるのは、昔からマタギが守ってきたからなんです〔…〕

 その間に白神山地は世界遺産に登録された。すると、どこからどこまで入ってもいいが、ここからはだめたというような線引きがされ、それまでの白神ではなくなった。

 

 マタギ奇談|工藤隆雄|山と渓谷社|201610|ISBN: 9784635320146|

  青森、秋田、山形でマタギに会い、山の神のたたり、山津波、熊捕獲、怪魚などマタギ伝説を収録したもの。白神山地の暗門の滝菅江真澄が来たことがあるらしいというマタギはなしは興味深い。

  新田次郎『八甲田山死の彷徨』(1971)は映画化もされ有名だ。この事件は1902年(明治35年)200名近い死者を出した陸軍の雪中行軍の遭難事件。この事件が明るみに出たのは、当時部隊を案内したマタギが28年後に経験談を語ったところから。さらに時事新報記者小笠原孤酒『八甲田連峰吹雪の惨劇』(1970)によって事件がよみがえった。これを読んだ新田次郎が『八甲田山死の彷徨』を一気に書き上げたという。

  ――孤酒は自分の本が有名作家の小説の元になったことを喜んだ。が、その一方で愕然ともした。(マタギの)鉄太郎たちがひどい扱いを受けたことが明確に書かれていなかったばかりでなく、青森隊と弘前隊は関係なく雪中行軍をしたのに、連絡し合って山中で会うことにしたことなど、ところどころ史実が曲げて書かれていたからだ。おもしろくするためにありもしないことを書いていいのかと思ったのだ。(本書)

  文章が洗練されていないのは惜しいが、ひとつひとつ興味深い話が満載。さて、上掲の白神山地の老マタギのはなしの続き……。

  ――それから数年後、白神山地は鳥獣保護区に指定された。その結果、白神ではいっさいの猟ができなくなってしまった。その瞬間、千年、いや、縄文時代から続いてきたマタギという文化が終焉を迎えた。奇しくも男がいった通りになった。白神山地が世界遺産に指定されてから11年後の2004年のことである。(本書) 

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