年の瀬を横に斜めにタテの会、何かにつけて心せわしき
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二十五日、毎日新聞から電話があり、「知っていますか」「えっ?」「三島が自衛隊になぐりこみました」「自衛隊に?」「とにかくTV観て下さい」TVをつけると、バルコニーでさけぶ三島の姿、すぐ丸谷に電話をかけた。
「はーい、丸谷です」「野坂ですけど」「あ、君かァ」まだ知らない、「TV観て下さい」「TV? 君、歌でも唄っているのかい?」「三島さんが、自衛隊になぐりこんだそうで、今、TVでやっています」「後で電話する」。(略)
十二月半ば、丸谷から葉書が来て、狂歌、「年の瀬を横に斜めにタテの会、何か(・)に(・)つけて心せわしき」 丸谷も三島の蟹嫌いは知っていたらしい。「あれ以後、筆が進んで――」
――野坂昭如 『文壇』
文壇
*読前:生き残ってみせる。しがみついてやる。虎視眈々と「文壇」の末席に連なることを夢見たあの日、あのころ。戦後文壇の表と裏を、極私的にたどる灼熱のメモワール。
**読後:★★★ 1961年から1970年まで、色川武大の中公新人賞受賞パーティから三島由紀夫の死まで、CM作詞家から黄色ページの雑文書きを経て直木賞受賞まで、著者の30代が描かれる。
「一晩、二ステージ十万で、九州から盛岡、秋田のキャバレーを、コシノ・ジュンコデザインの衣装で、経めぐり、どこでも入り口に、『歌う直木賞作家来る』の看板。持ち唄は二曲、……」
それは自ら作詞したこんな歌だったはず。
男と女の間には、深くて暗い河がある。
誰も渡れぬ河なれど エンヤコラ今夜も舟を出す。
――黒の舟歌
***野坂昭如 『文壇』文藝春秋・2002.4.25第1刷
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