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2005.02.24

会社は商売を考えているんじゃない。全国のファンが待っているからだよ。

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お気に入りのフレーズ(37)


 葬儀は松竹太秦撮影所で行われ、折からストライキ中だった労組は、映画人葬の名に於て、阪妻との惜別の式に参加する旨の声明を出した。
 嵯峨の自宅から太秦までの沿道には、隙間もないほどに死を悼む人が並び、京都市内の花屋という花屋で花が売り切れた。

 阪妻の野辺送りがすんで間もなく、制作本部長高村潔常務が京都撮影所を訪れ、メイン・スタッフを集合させた。
「『あばれ獅子』はね、完成して貰うよ」
 それが高村の第一声だった。

 監督の大曾根辰夫はそっぽを向き、プロデューサーの小倉浩一郎は眼を伏せてしまった。七分通り撮影が終わっているとはいえ、阪妻なしでは撮れないシーンが数多く残っている。完成できる道理がないのだ。

「みんな考えていることはわかるがね、どうしてもこの作品は仕上げて貰う」
「なぜ、そんな無茶をおっしゃるんです」
 大曽根が聞いた。
「大曾根君、会社は商売を考えているんじゃない。全国のファンが待っているからだよ」
 
―― 高橋治 『純情無頼――小説阪東妻三郎』

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純情無頼―小説阪東妻三郎文春文庫

■読前
 たとえば「雄呂血」の20分余の大立ち回り、あるいは「無法松の一生」「王将」「破れ太鼓」の、アクの強い性格俳優ぶり…。日本映画の巨星、阪妻の壮烈な役者人生を活写し、「伝説」とその真実を鮮やかに描き出す。

■■ 読後  ★★★
 本書は阪妻の長男・田村高廣の友人でもある著者が描いた評伝。大スターの純情ぶりと無頼ぶりの伝説を追う第1部『大江戸五人男』がむやみにおもしろい。

 阪妻が亡くなったのは1953(昭和28)年、52歳だった。リアルタイムで阪妻の映画は見ていない。たとえば「大江戸五人男」(1951)に共演している高橋貞二、月形龍之介、高田浩吉、大友柳太朗、市川右太衛門などのスターはリアルタイムでずいぶん見ているのに…。

 のちにテレビで「雄呂血」1925「破れ太鼓」1949を見た。阪妻には30年間に200本をこえる作品がある。「無法松の一生」1943「王将」1948、そして掲出の遺作「あばれ獅子」1953など見てみたい。映画の本を読むとビデオ・ショップへ走りたくなる。もちろん走ります。

■■■ 高橋治 『純情無頼――小説阪東妻三郎』2002.2文藝春秋・2005.2文春文庫

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