小津の映画は、どちらかというと俳句の世界に似ている。余分なことは、削ぎ落とし、一切、語らない。
―― 出久根達郎 「荘丹」
壁に、季節の書画を飾ることにする。〔略〕現在は、映画監督・小津安二郎の手紙を、飾っている。手紙は昭和十三年三月二十一日付のもので、戦場から内田誠に宛てたもの。〔略〕
「……お天気がよく討伐がない日ハ、大方築土の土塀の陽だまりで昼寝をします。この陽だまりに牡丹が一本すでに蕾をつけています。この牡丹が咲いてくれゝバ拙句が一つ生まれます。砲声に崩れ落ちたる牡丹かな」〔略〕
小津の映画は、どちらかというと俳句の世界に似ている。余分なことは、削ぎ落とし、一切、語らない。登場人物のセリフも短く、十七文字のリズムがある。〔略〕
それはともかく、小津の句を、日記から、アトランダムに拾ってみる。
寒鯉やたらひの中に昼の月
水嚢にほこりたまりし夜寒かな
葉桜や会津大津絵牛車
三十の誕生日の近けれバ
わが恋もしのぶるまゝに老ひにけり
木枯もいとどに濡れて時雨かな
*
★★
本書は、「俳句研究」に連載された「一句萬象」という「古今の一句に触発された“私の心象風景”を綴ったもの」と、『古本・貸本・気になる本』に記述があり、中味を見ずネットで購入した。その本のなかで、著者の夫人の「繭玉の汁粉男の二人連れ」を、「下戸の二人連れ」の方がよいかもしれぬ、とあった。そのあたりで、著者の俳句のレベル?)を推し量るべきだった。ネットで購入する本は、3冊に1冊は失敗。
*
以前、著者は父の句、妻の句を引用しながら、なぜ自句を披露しないのだろう、と書いたが、本書にも揮毫をたのまれ自作の句を記した、とある。また、ネットで見ると、『佃島ふたり書房』や『無明の蝶』の「毛筆俳句入署名落款本」が古書店に出ているが、もしや自句ではと思ったりする。が、いまのところ著者の俳句は未発見。
*
ところで、小津安二郎といえば、「早春」「彼岸花」「晩春」「麦秋」「秋日和」「秋刀魚の味」とタイトルを並べただけでも、歳時記ですよねえ。日記に100句ほど残しているらしい。
*
青梅も色づくまゝに酒旗の風
旅人宿のぼんぼん時計や日のさかり
鯛の骨のどに立てたる夜長かな
口づけも夢のなかなり春の雨
■■■ 出久根達郎 『嘘も隠しも』2002.8・富士見書房
| 固定リンク
コメント