■ 関係者以外立ち読み禁止|鹿島茂
長いあいだ不思議に思っていたにもかかわらず、いまだに解決のついていない謎が一つある。徳川の鎖国政策の完全実施のさい、なぜ、キリスト教世界でオランダだけが例外とされ、貿易を認められたのかという疑問である。〔…〕
「オランダ人(男)から名誉や妻を奪うことは出来ても、金を奪うことは出来ない!」
第二次大戦中、日本軍によってインドネシアから追われたオランダ人が、今日になっても絶対に日本人を許そうとはせず、根強い反日感情を抱いているのはこのためなのである。
日本人はオランダ人にとって命よりも大切な金(財産)を奪ったのだ。
「オランダで一番大きな宗派は、何度も繰り返しますが、誰が何と言おうが『拝金教』です。ここでは『お金』が第一義なのです」
この最終的な結論の中に、われわれは、冒頭に掲げた大きな疑問を解くカギを見つけることができる。すなわち、鎖国のとき、オランダ人が布教を放棄してまでも貿易を選んだのは、彼らが「拝金教徒」だったからにほかならない。信仰よりも金が大事、なのである。〔…〕
中国はメンツ、韓国はプライド、アメリカは正義、そしてオランダは金、それぞれ聖域は異なるが、いずれも、この聖域を侵犯した場合には、永遠にたたる。戦争には、敵国のメンタリティー研究がなによりも必要といわれるゆえんである。 ――「命より金が大事」 ■ 関係者以外立ち読み禁止|鹿島茂|文藝春秋|2003年04月|ISBN:4163595708 ★★★ 《キャッチ・コピー》 世の中のエッチの「?」と「!」。「とは知らなんだ」疑問氷解の快文集。 《memo》 『オール読物』連載「とは知らなんだ」2冊目。

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