■ モモレンジャー@秋葉原|鹿島茂
私たちの斜め前の座席にすわったフランス人女性がスパゲッティを注文した。私はフランス人がいったいどうやってスパゲッティを食べるのか興味があったので、大いに注目しながらスパゲッティの到着を待った。やがて、大きな皿に盛られたスパゲッティが運ばれてきた。
さて、これをどう食べるのか?
その女性は、ナイフとフォークをおもむろに手に取ると、左手のフォークでスパゲッティを押さえてから、右手のナイフで「井」の字形に何重にも切り刻んだ。そして、そのあと、フォークを右手に持ち替えて、ショート・カットされたスパゲッティをマカロニをすくうようにしてフォークの腹にのせて口に運んだ。
あまりに驚いたので、もしかすると、その女性は例外なのかもしれないと思いかえし、在仏経験の長い日本人何人かに問い合わせてみた。答えはみな同じだった。それがフランス人のスパゲッティの食べ方であると。
なるほど、これでフランスのスパゲッティがあれほどにまずい理由がよくわかった。彼らはスパゲッティを麹として味わう必要がないから、煮方などはどうでもよく、いわんや、喉越しとか、歯ごたえなどは問題とならないのだ。
――「人類はみな麺類か?」
■ モモレンジャー@秋葉原|鹿島茂|文藝春秋|2005年05月|ISBN:4163670009
★★★
《キャッチ・コピー》
鹿島教授の奇想天外、なるほど納得のユニーク社会論。
《memo》
『オール読物』連載「とは知らなんだ」3冊目。
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