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2006.11.10

■ 転がる香港に苔は生えない|星野博美

20061110korogaruhoshino

「この年になって新しい生活を始めるのは辛いな。でも慣れなければならない。どんなに慣れなくても、慣れていくしかない。慣れさえすれば、どこでだって生きていける」〔…〕

突然この村と出会い、その荒廃ぶりと人々の村に対する思いの深さに動揺を隠せない私の前で、劉さんは四七年間住み慣れた場所を離れる心の準備がすでにできているようだった。渋いお茶をすすりながら淡々と話す劉さんと、自分の拾い物コレクションに囲まれながら優雅に新聞を読んでいた夏じいさんに、私は同種のものを感じた。

先へ進むための哀しい強さ。これが移動を宿命づけられた人の平静なのだろうか。

二人は政治的見解も思想もまったく異なっていたが、一つだけ同じ言葉を口にした。

慣れるしかない。慣れさえすれば、どこでだって生きていける。

どんなに愛着を抱こうと、その場所を離れなければならない時は来る。痛みを感じていないのではない。ただ、過去への執着は、未来への適応能力を鈍化させる。前へ進むことでしか痛みは癒せないことを、彼らはいやというほど体に刻みこまれてきたのだろう。

■ 転がる香港に苔は生えない|星野博美|文藝春秋|200610月|文庫|ISBN4167717077

★★★★

《キャッチ・コピー》

199771日、香港返還。その日を自分の目で、肌で感じたくて、私はこの街にやってきた。故郷に妻子を残した密航者、夢破れてカナダから戻ってきたエリート。

それでも人々は転がり続ける。「ここは最低だ。でも俺にはここが似合ってる」。ゆるぎない視線で香港を見据えた2年間の記録。大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。

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