■ 文学賞メッタ斬り!リターンズ|大森望/豊崎由美
島田 定年退職した人たちが、膨大な暇を持て余すという現実はあるわけだ。老後の蓄えっていうのは、ほんとは定年退職したらもう遣えばいいんだけど、実際はどうしようかと迷う人生が二十年くらい続く。
その中で一番ローコストな投資として、小説を書く。原稿百枚くらい暇にあかせて書いていく。どうせ行くところもないんだから、図書館にでも行けばいいわけです。そればかりだと心が病気になるかもしれないから、町の区民会館とかのプールで泳ぐでしょ、で、健康になるでしょ、そうやって日が過ぎていくわけです。
そうこうするうちに、やっぱり一年に付き二、三百枚の原稿は書けるよね。しかも定年を迎えるまでには経験も積んでいるだろう、辛酸も舐めただろう、病気もしただろう。辛酸を舐めて病気したら、普通の純文学は書ける、書く資格はある。〔…〕
前々回の文学界新人賞、七十いくつの方が応募されてきて、最終まで残ったんですよ。審査しましたが、ちょっとね、いかれてるんですね。でも面白いんです。〔…〕
で、最終候補の五本に残るってことで担当者が本人に電話したらね、「あら、あたしそんなの応募したかしら」(会場爆笑)。応募したことを忘れてる。しばらくして「……そんなことがあったような気がするわ」って。また時期を変えて家族の人と話したら「うちの母ボケてまして」って。
豊崎 いい塩梅にボケ味が絡んで、面白くなったんでしょうね。
――島田雅彦・大森望・豊崎由美「公開トークショー 文学賞に異変!?」
■ 文学賞メッタ斬り!リターンズ|大森望/豊崎由美|パルコ出版局|2006年08月|ISBN:4891947411
★★★
《キャッチ・コピー》
本読みのプロフェッショナル大森望と豊崎由美による大好評書籍「文学賞メッタ斬り!」の第2弾。スペシャルゲストとして作家島田雅彦を迎え今後の文学界について、白熱の座談会を収録。

| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント