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2006.12.22

■ ひとり歩きの朝|新藤兼人

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老人というのは、人生の荒波をのり切って花も嵐もふみ越え、平和な境地に達した善男善女と思うしかなかった。だからシナリオにおじいさんおばあさんが登場してくれば、つねに柔和な微笑をたたえ、深いシワには人生の苦渋がおさめられて、かぎりなくホトケサマに近い人、としてきた。

ところが、わたしが八十を越えて、老人の内側にはいる立場に立つと、ぜんぜんちがうのである。平和どころかシュラのチマタなのだ。エゴがうずまいている。

まず、多くの人を裏切ったり傷つけたりしてきた購罪の悔恨。これはいいほうだが、反対に、傷つけられたり裏切られたりした無念。人間は人を裏切る生きものだから、裏切ったことは忘れて、裏切られたことだけが拡大される。

それから、もっとも大事なことは、生きる時間が少なくなっている焦燥感、確実に死が迫ってくる現実。こうしたことでにこにこ微笑などを浮かべてはいられない。浮かべるにしてもつくり微笑である。

――「老人とは」

■ ひとり歩きの朝|新藤兼人|毎日新聞社|200206月|ISBN4620315737

★★

《キャッチ・コピー》

90歳。孤独もすてたものではない。失ったひとの思い出があるから。妻に先立たれた映画界の巨匠のモノローグ。

■ 愛妻記|新藤兼人

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