■ 千年紀のベスト100作品を選ぶ|丸谷才一/三浦雅士/鹿島茂
『源氏物語』の正しい読み方
丸谷 僕が最初に『源氏物語』をどういうふうに読んだか。
三浦 ぜひ伺いたい。
丸谷 まず布団に入る。で、目の前に原文を置く。右に現代語訳。
鹿島 何訳ですか。
丸谷 与謝野晶子。
三浦 僕も同じ。
丸谷 左にアーサー・ウエイレーの英訳を置く。それで、三ページ原文で読む。原文三ページぐらい読むとくたびれる。
鹿島 くたびれます。
丸谷 くたびれたらそこで元に戻らない。それから先のところを現代語訳で読む。三ページぐらい読むとまたくたびれる。そこで今度はそこから先を英語で読む。一カ所として立ち止まらない。
三浦 つまり訳と対照しない。
丸谷 ただ前へ前へと進む。僕が新しい読者に勧めるとすればこの手ですね。所々飛ばしてもいいからとにかく前に進んで、やめないというのがいいと思う。
鹿島 長編読むときに″難所″ってあるでしょう。そこでたいていアウトになるんです
ね。「須磨源氏」という言葉があるけれども、それは絶対にそうですよね。〔…〕
鹿島 飛ばしていいんですね(笑)。
三浦 それはそれこそ、ドストエフスキーだろうが、バルザックだろうが、本人は綿密に読んでいるつもりかもしれないけど、先へ先へと飛ばし読みしている場合が圧倒的に多いと思う。面白ければ、そうなる。
丸谷 それでいいんだよ。それを「よくない。じいっと頑張って読め」というようなことを言うでしょう。だからみんな本読むのを嫌いになる。とにかく面白がって読まなくっちゃ。それからエロティックなところを面白がって読むことが文学の読者として低級だという考え方は間違いね。〔…〕
丸谷 『源氏物語』だって、ここはどういう体位だろうか、ぐらいに思って読まなきゃダメなんです。
■ 千年紀のベスト100作品を選ぶ|丸谷才一/三浦雅士/鹿島茂|講談社|2001年05月|ISBN:4062103354
★★★
《キャッチ・コピー》
文学・絵画・音楽・建築・舞踊・映画など、この千年間に人類が生み出したすべての芸術の中からベスト100を決定する試み。選出から解読までの選者の議論、このリストへの異議申し立て、豪華執筆陣による各作品論を収録。
《memo》
この1000年の間の芸術作品ベスト100を選ぶというばかばかしくも真剣な遊び。
★2006年4月14日から続けてきた「1日1冊」という“晴読雨読”は年末で連続262日、本年は263日目からのスタート。
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