■ あのころの未来――星新一の預言|最相 葉月
ケータイ小説の話を聞いてから数か月後、星新一の作品がケータイで配信されることが決まったという報道があった。文字数といい、時代にしばられない内容といい、今の若い人の間でもきっと評判になることだろう。
だがー方で、星がこのことをどう思うだろうかと想像する。星は、短編小説の重みについて出版社と闘ったこともある作家だ。〔…〕
その重さを考えるとケータイ小説はあまりにもお手軽すぎるように思えるが、本に誘導するためのひとつのきっかけと考えてしばらく見守っていることにしようか。
それにしても、このわずか二ページの『ホンを求めて』は読めば読むほど恐ろしい。祈祷師によると時代は「先祖の先祖」の頃だという。ということは、いまわれわれの生きているこの世は、ホンを失ってからいったん全滅してしまっているということになる。時代は大昔ではない。未来なのだ。
私のまわりには、私も含め、紙の本は絶対になくならないと信じている人が多い。だが、三十年前、星は警告していた。ホンを失い、われわれは滅ぶ。意外に近い、あっという間の未来かもしれない。
――「ホンをさがして」
■ あのころの未来――星新一の預言|最相 葉月|新潮社|2005年 08月|文庫|ISBN:9784101482224
★★★★
《キャッチ・コピー》
夢みたいな世界と悪夢のような現実はすべて彼の短篇に描かれていた。臓器移植、ネット社会、クローン人間…。星新一と考える、科学と人間の望ましい姿。『サンデー毎日』に連載した50編をまとめる。
《memo》
星新一著『ホンを求めて』の最後の部分
そして、ついに手がかりをえて、ある部族の祈祷師の老人に会えた。ポギは言う。
「あなたは、ホンを知ってるそうで…‥」
「ああ、聞いたことはある。現物を見たことはないがね。わしらの先租の先租の時代には、
いたるところにあったそうだ。だが、映像とか幻覚とか――わしにはなんのことやらわからんがね――それらが流行し、みなホンを捨て、使わなくなってしまったそうだ。なぜだかわからん。すばらしいものだったらしいんだがね。ふしぎなことだ」
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