■ 野蛮な図書目録――匿名書評の秘かな愉しみ|狐
本は立って読む。夜、自室の出窓に小さなライトを置き、その前に立って読む。あらかじめ時間を区切っておいて、その時間内は立ちながら読むことに沈潜する。
ただし朝から一日、外で労働させている身体である。立っているのに耐えられないことがある。少なくとも快適ではないと感じることがある。快適でないのを我慢して本を読んではいけない。さっさと止めて、続きを明日の夜に回す。逆にどんなに快調に読んでいても、時間が来れば中断して寝てしまう。夜更かしは明日の仕事に差し支えるし、睡眠時間を削ってまで本を読もうとするのは、どこか貧乏くさい気がする。〔…〕
立ちながらの読書に、果たしてアイロニーなどがあるかどうかは分からない。ただ体躯をまっすぐに伸ばし、まるで一本の頓狂な竿のようになって本を読むという、その少しばかり滑稽な感じを私は好む。立って読むことに、私は決めた。
思えば、読んだあと、その一冊について書評を書くときもまた、私はそのたびに一本の愚鈍な棒になっている。
――序・野蛮としてのブックレビュー
■ 野蛮な図書目録――匿名書評の秘かな愉しみ|狐|洋泉社|1996年 09月|ISBN9784896912296
★★★
《キャッチ・コピー》
匿名の読書案内人が読んだ「本の目利き」たちを唸らせる199冊。週にいちど夕刊紙に出現する、(狐)の筆名で書かれたブックレビュー。研ぎ澄まされた「選書眼」と至妙な筆致で、本のもつ魅力が立ちあがる。
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