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2007.03.06

■ 歴史小説の懐|山室恭子

20070306rekisiyamamuro

鞍馬天狗の小父さんがやってくる夜は、どうやら二回に一回の割合で雨になる。なぜ、かくも激しく雨男なのか。それは、謎に包まれた鞍馬天狗の正体につながる貴重な手がかりとなってくる。

『剣客商売』の秋山小兵衛の上にも、よく雨が降る。全八十七話のうち、どこかで雨か雪が降っているものは六十話もあり、うち三十五話はまさに話のクライマックスというところで降っているし、「時雨蕎麦」「卯の花腐し」など雨にちなんだタイトルも多い。そのことは、剣客である小兵衛が立ち会うこととなる、さまざまに翳りを帯びた人生とどこかで通底しているのではないか。

山田風太郎『幻燈辻馬車』における<降水確率>のデータもまた示唆深い。〔…〕

危急の際にあの世から助っ人に駆けつけてくれる幽霊は、どうも雨とか雪とか靄とか、いずれ常ならぬ空模様の時にしか出現しない習性があるらしく、そのことには辻馬車がめぐる先々で無際限に流される血を洗い清める意味あいが込められているのではないか。

雨もまた、作品の懐へと読み手をいざなってくれる重要な使者の役割を果たしているのである。

■ 歴史小説の懐|山室恭子|朝日新聞社|2000 07月|ISBN9784022574947

★★

《キャッチ・コピー》

「大菩薩峠」の七不思議など、歴史学者ならではの緻密な作品読解と、そこから導き出される大胆な仮説で、これまで読み継がれてきた歴史時代小説の名品23篇の「懐」を探り、その深奥に新たな光をあてる。

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