■ 実録・天皇記|大宅壮一
皇室の一番大きな使命は、皇室そのものを存続させることである。
その皇室の中核体をなしているのが天皇である。“神代”から伝わっている“血”を後世に伝える生きたバトンである。聖火である。この火はどんなことがあっても消されないように守りつづけねばならぬ。これが皇室の中のすべての組織、制度、施設の中に一貫している思想であることはいうまでもない。
そのためにもっとも大切なものは、“血”のにない手である天皇、ついでその“血”を次代に伝える器としての女である。男女間の“愛情”などというものは、“血”を伝えるという至上目的からみれば、まったく第二義的、付随的なものとなる。
将来科学が非常に発達して、受精はもちろんのこと、受精した胎児も特殊装置の中で哺育できるようになれば、“血”のリレーはもっと簡便に、しかも完璧に近い形で行われるであろう。
だが、今の段階ではどうしても女の肉体を借りねばならぬから、ムダが多く、旅行に出発する際の自動車タイヤのように、相当のスペアを必要とするのである。
――「危なかった“血”のリレー」
■ 実録・天皇記|大宅壮一|大和書房|2007年 01月|文庫|JAN:9784479300724
★★★
《キャッチ・コピー》
皇室はいかにして永続してきたのか。社会評論の天才大宅壮一が、天皇一族の女、カネ、権力を活写。神代から明治維新にわたり、皇統を守るべく繰り広げられた波乱万丈の闘いを、縦横無尽に描き出す。
《memo》
「実録・天皇記」の初版は、昭和27年(1952)鱒書房刊。
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