最相葉月■ 最相葉月のさいとび
中嶋(りり子=ウィーン放送響の第二バイオリン首席奏者)は続けた。
「楽器が下書き、デッサンだとすると、演奏家がどんどんそこに色彩を加えていくのです。たとえば一つの旋律を弾くときも、この移り変わりが綺麗だからこういう色づけにしたいだとか、色づけするにしてもその色は一色なのか、それとも混ざっているのか。
ただ、音楽にはその時代特有のスタイルもありますし、作曲家のデッサンにはアイデアがありますから、それに逆らわないように……。
つまり演奏家が楽譜からどれだけ作曲家の意図を読みとる感受性があるか。それが、その人の音楽性の豊かさではないかと思うのです。人の演奏を聴けばこの人はわかってる、わかってないというのはすぐわかります。どれだけ感情がこもっていても感受性がないという人はいます。それを才能と一言ではいいたくないんですけど……」
なんと恐ろしい言葉だろうか。中嶋だけでなく、何人もの音楽家から私は同じ言葉を聞いていた。
――「絶対音感」で出会った音楽家たち
■ 最相葉月のさいとび|最相葉月|筑摩書房|2003年 12月|ISBN:9784480814593
★★
《キャッチ・コピー》
たくさんのそこそこより、ほんの少しののめり込み人生を私は選ぶ――。個性の光る視点から人と科学の関係を問い続けた著者による、多彩な魅力を伝える初期ノンフィクションとエッセイ。「そばにいること」の意味をふりかえる。
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