■ 有馬賴義と丹羽文雄の周辺――「石の会」と「文学者」|上坂高生
昭和60年代(1985年代)にはいってから数年かけて「ぎょうせい」という出版社が、『日本文芸鑑賞事典』という全20巻の大部のものを出した。〔…〕
これは、明治以降、昭和50年(1975年)までに限定し、分野は、純文学にかぎらず、大衆小説から児童文学・俳句にまで至る膨大なものである。
組本社の一室で企画一覧表を見せられた私は、最終巻の第20巻に五木寛之さんの『青春の門』、渡辺淳一さんの『花埋み』が取りあげられているのを見た。しかし、第14巻以降の戦後編のどこを捜しても有馬頼義さんの名がない。こんなことがあってなるものか。
「有馬頼義さんは、編集会議で名まえがあがらなかったのですか。あんなに活躍したのに。いい作品があるのに」
「そうだね」〔…〕
「かまいませんよ。何を入れますか」
社長は余裕たっぷりにいう。
「ぼくは『遺書配達人』がいいですね」
この作品は短編小説を集めたようなものであるけれど、その一つ一つに、そうしてこの短編をつなぐ役をはたす遺書配達人に、戦争のもたらす悲惨さを強烈に描き訴え、読者の胸をゆきぶる。戦後十年ちかくなろうとするのに、なお戦友の遺書を持ち、遺族を捜して歩く主人公なのである。
「では、それにしましょう」
――有馬賴義と「石の会」の士たち
■ 有馬賴義と丹羽文雄の周辺――「石の会」と「文学者」|上坂高生|武蔵野書房|1995年6月|ISBN:……
★★★
《memo》
有馬賴義を囲む「石の会」のメンバー。井出孫六・五木寛之・三浦哲郎・色川武大・後藤明生・渡辺淳一・立松和平・早乙女貢・森内俊雄・北原亜以子……。なぜ有馬賴義が忘れ去られたままなのか。
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