嵐山光三郎■ よろしく
ぼくが書いていたのは「下り坂の研究」というタイトルで、人生の後半をうまく下っていった人の話だ。
若いころはみんな登り坂をいく。負けまいとして一生懸命登っていくけれど、六十歳を過ぎたころから下り坂となる。
何年か前に友人のS崎重盛と「奥の細道」を自転車で踏破した。そのとき、登り坂よりも下り坂のほうがずっと気持がいいことに気がついた。ぜいぜいと息をはきながら坂を登りつめたあと、下り坂になるとほっとした。躰全体にあたる風が涼しく、カーブを曲るときなんか、「なんて気分がいいんだろう」と思った。
人生の極意は下り坂にある。坂を下るために生きてきたようなものだ。しかし、下り坂を走るのにはそれなりの技術がいり、うっかり油断すると崖から転落する。
■ よろしく|嵐山光三郎|集英社|2006年 10月|ISBN:9784087748055
★★★★
《キャッチ・コピー》
人は「よろしく」と現れ「よろしく」と去っていく。人の世の喜びも悲しみも、実はこの一言に尽きてしまう。介護、殺人、色模様―現世の諸相を通して、嵐山光三郎流の人生観、死生観を楽しめるスペクタル長編小説ここに登場。
《memo》
急激な下り坂の父、86歳。<西日さすそちらも風が吹きますか>
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