■ 今平犯科帳――今村昌平とは何者|村松友視
「楢山節考」は、俳優・緒形拳にとって自分の歴史から消せないものだと自ら語っていたが、その現場からして異様なものであったようだ。
緒形拳 南小谷の白馬が向うに見えるけもの道を、何キロぐらいでしょうか、登ったり降ったりしながら、ずーっと奥の方に行くと、茅葺きの大きな家の倒れかかったのが、三軒ほどあるんですね。監督に「これを今から直すから、手伝え」って言われて、大道具さんや小道具さんと一緒になって、とんかち持って作業を始める。〔…〕
逃げないように、そこに隔離されるように、役者がいっぱい……。あれは、足かけどのくらいかかったんでしょうね。新宿御苑でカラスを取ってきて、そのカラスが産んだ子を、カラス係が育てて……。何て映画だろうなって。
僕は芝居から出てきたからよけいそうなんでしょうけど、“演じるんだ”とそれまでずっと思ってたんですよね。“演じない”ことの面白さっていうのを、細かいことはどうでもいいんだっていうのを、あそこで体験しました。
■ 今平犯科帳――今村昌平とは何者|村松友視|日本放送出版協会|2003年 06月|ISBN:9784140807996
★★★
《キャッチ・コピー》
緻密なシナリオ。執拗なリハーサル。ロケ地に畑をつくって耕し、カラスを育てる。役者の生理を極限を超えてえぐる演出。完成フイルムを平気で捨ててまたつくる…不条理だが条理。小説家村松友視が、今村映画の縁者たちに取材し、巧妙な“禁じ手”手法でまったく新しい“今平”ワールドを探りあてた書き下ろし。
《memo》
「楢山節考」は、かつての木下恵介作品とは、まったく別の作品となった。姥捨山伝説を、きわめて様式的につくり上げた木下作品に対して、オールロケという今村流の方法論が、別世界をつくりあげた。“オールロケ”という撮影上の形式ではなく、その方法から派生するさまざまのことが、ことごとく木下作品の色合いをくつがえし、まったく新しい現代的なテーマを引きずり出した。これは、あらゆる作品づくりにさいしての今村昌平流であり、この作品にかぎった特徴ではあるまい。確乎たる木下作品が存在したゆえ、よけいに今村流の冴えが顕著にあらわれたというケースなのだろう。(本文より)
*
| |
|
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント