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2007.04.14

■ 幸田文のマッチ箱|村松友視

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東京よりはるかに強い陽の光の中で、三重塔は静かな佇いを見せている。そのけしきを見て決めたのではもちろんないだろうが、法輪寺をつつむ風景は、いかにも幸田文の好みにふさわしい、素朴で気取りのない淡とした雰囲気にみちていた。

小川三夫さんは、挨拶をしたあと何も喋らずに先に立って山門を入って行ったので、私はあわててあとを迫った。小川さんは、塔の前で立ち停り、私に塔を打ちながめる時間を与えてくれているらしく、見上げる私が余計な予見をもたぬよう言葉を発しない。

「あそこからね……」

小川さんが、不意に言ったので、私は思わず彼の指の先を見た。指は、塔の高い部分に向けられていた。

あそこの素屋根から見ていると、よお見えるんですよ、あやちゃんが歩いて来るのが。まっすぐな参道ですからね、ああ、あやちゃんが来たって、みな言ってましたね。春のかげろうのときなんか、あっちに揺れこっちに揺れるようにしてやって来るのが、楽しそうでですね。職人に親しまれるタイプですね。え? みなあやちゃんって言ってましたね。

『斑鳩の記』に出てくる職人の匂いの濃い喋り方ではなかった。〔…〕しかし、宮大工の三文字を胸に抱いて生きている男というのが、やはり小川さんのど真ん中に見える色であるのはたしかだった。

――「第11章 斑鳩の渾身」

■ 幸田文のマッチ箱|村松友視|河出書房新社|200507月|ISBN9784309017228

★★★★

《キャッチ・コピー》

母の死、父・露伴から受けた厳しい躾、弟の死、継母との関わり…そこから浮かび上がる「渾身」の姿。作家・幸田文はどのように形成されていったのか。その「作品」と「場所」を綿密に探りつつ、幸田文世界の真髄にせまる極上の書き下ろし。

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 昨日サンボーホール古本市で、幸田文「みそっかす」(昭和264月第1刷発行・岩波書店)を手に入れた。背表紙に「生れた 泣いた あばれた」とある。当時としては画期的なキャッチコピーではないか。

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