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2007.05.22

川本三郎/斎藤慎爾:編■ 久世光彦の世界-昭和の幻景

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ある日、気がついたら、机の前に正座して居眠りしていた。居眠りするにしては律儀過ぎる姿勢である。またある日は、同じ正座の姿勢のまま、何時間も本を読んでいた。私は元来、自堕落な性質でソファーに寝そべったり、畳に引っ繰り返って本を読むのが長年の習慣だったから、自分で少し驚いた。――ちょっとした異変である。

この異変は、六十半ばを過ぎたころから始まったようだ。ふと気がつくと、膝を揃え、背筋を伸ばし、穏やかに首を垂れ、時には手の指を組み合わせて、ほとんど意味のないことを、ぼんやり考えている。〔…〕

そんな日がつづいたある日、私は自分とそっくりの姿勢で項垂(うなだ)れている男の姿が、突然目の裏に浮かんで、体が凍った。その男は、ぼやけた橙(だいだい)色の帷子(かたびら)を着せられて、窮屈そうに丸い木の桶の中に坐っていた。

ガクンと折れた首に数珠玉をかけて、胸の前で合掌している。どこか遠くから、狂ったような蝉時雨が聞こえてきて、男はむずかるみたいに、首を何度か横に振った。――五十数年前の夏の日暮れ、医者の診立て違いで、半日苦しんだだけで死んだ、男は私の父だった。

――「正座」(最晩年の作品) 

■ 久世光彦の世界-昭和の幻景|川本三郎/斎藤慎爾:責任編集|柏書房|200703月|ISBN9784760130849

★★★★

《キャッチ・コピー》

TBSのドラマ黄金期を演出し、独自の美学を貫き文壇でも活躍した久世光彦。20063月に急逝した昭和の巨匠を追悼するアンソロジー。対談やエッセー、秀逸な久世光彦論や追悼文、秘蔵写真であらためてその魅力に迫る。

memo

久世光彦ファンにとって貴重な資料集。

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