村松友視■ 永仁の壷
「小山さんと唐九郎は、陶磁器の研究や古窯址の発掘、それに陶芸に魅入られていたという点で、大きく分ければ似たタイプだと思うんだ」
「二人がですか……」
「その点ではね、しかしこれについても流派がちがう」
「流派……」〔…〕
「唐九郎の面白味も、ちょっと奥深いからなあ」
「ほう、奥深いですか」
「何しろ、あてる光によって色が変ってしまうのさ、唐九郎はね。ところが、小山さんは厳然としていてね、どんな光をあてても色は変らない」〔…〕
(それにしても、あてる光によって色が変わるのはたしかだ……)
老人の唐九郎についてのセリフが、私の頭に灼きついた。〔…〕
たしかに唐九郎は、あてる光によって色が変ってしまう。年譜にしたがって辿ろうと思っても、小山富士夫のように素直には受け取れぬ色合いが、そこにただよっているのだ。
■ 永仁の壷|村松友視|新潮社|2004年 10月|ISBN:9784103523048
★★★
《キャッチ・コピー》
加藤唐九郎が「私が作った」と告白した古瀬戸の壺は、重要文化財の指定を取り消され、壺を推薦した小山冨士夫は文化財調査官の職を辞した。世紀の陶芸スキャンダル「永仁の壺」事件。
その後、唐九郎は折にふれて事件を語り、小山冨士夫は最後まで口を閉ざした―。
*
| 固定リンク
コメント