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2007.05.18

池内紀■ あだ名の人生

20070518ikeuchiadana

JR

温泉津駅

から港につづく通りの左かたを小浜というが、大通りに面した屋根の低い平屋が浅原才市の仕事場兼住居だった。そこで桐や朴を削り、下駄をつくった。一日中、黙々と仕事をしていた。そのかぎりでは一介の下駄職人である。

ただおりおり思いがかすめると、仕事の手をやすめ、小学生の使うような粗末な学習帖に書きつけた。死んだあと、そんなノートが百冊あまり残された。〔…〕

何かあると念仏を口にしたが、悟りすました信者などでなかったことは、つぎのような痛烈な自己告発の言葉からもうかがえる。たしかに才市の言葉だが、表記は本にする際、編纂者が正して漢字を補い、句読点を入れたもの。

わたしや あさまし、泥の暗闇

とりゑなし。

天地の闇で、ぶらぶらと

堕ちること知らずにくらす。ぶらぶらと

世をすごす、このあさましが。

悟りのようなものがみまう瞬間もあったのだろう。才市の手が書いたとおりだと、こんなぐあいだ。

なんともない

うれしうもない

ありがともない

ありがとないのを

くやむじゃない

 ――「妙好人才市」

■ あだ名の人生|池内紀|みすず書房|200612月|ISBN9784622072690

★★★

《キャッチ・コピー》

オバケの鏡花・狂歌師鶴彦すなわち大倉喜八郎から富士に憑かれたかしく坊、まじない歌人・妖怪博士へ。あだ名で人生をみごと一貫した24人の肖像集成。

memo

水上勉に「才市」っていう本があるらしい。

*

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