« 辺見庸■ いまここに在ることの恥 | トップページ | 古田十駕■ こぼれ放哉 »

2007.05.26

村松友視■ 男と女

20070526muramatuotokoto

しかし、祖国において自分の思っているような待遇を受けぬ作家の孤独感は、いつもモームに取り憑いていたにちがいない。そして、本国での待遇に屈託を抱いていたモームも、シンガポールのラッフルズ・ホテルでは、大英帝国の偉大なる文豪として通っていたはずだ。

このラッフルズ・ホテルのロビー脇にあるロングー・バーのカウンターでは、押し寄せる観光客のためにシンガポール・ジン・スリングがつくられ、次々と運ばれている。

そことは対照的に、チャイニーズ系のミスター・ホーがチーフ・バーテンダーをつとめる二階のライターズ・バーは、静かな雰囲気にみちていた。ミスター・ホーは、モームが最後にラッフルズ・ホテルをおとずれたときに部屋係だった人なのだ。〔…〕

そして私は、モームは何を好んで飲んだのかを、ミスター・ホーにたずねてみた。すると「ウイスキー・ソーダ」という言葉が返ってきた。ウイスキー・ソーダはすなわち、私が学生の頃にトリスバーで飲んでいたハイボールではないか。私は即座に、「ボクにもハイボール、いやウイスキー・ソーダをつくってください」と頼んだ。

――「モームの酒」

■ 男と女|村松友視|毎日新聞社|200703月|ISBN9784620318134

★★★

《キャッチ・コピー》

昭和の風景のなかに贅沢な男と女が輝いていた。あの頃の街の色気。記憶に残る男や女。都会的クールネスと味わい深い情感が交わる極上の短篇小説的随想集。

*

村松友視■ ヤスケンの海

村松友視■ 今平犯科帳――今村昌平とは何者

村松友視■ 幸田文のマッチ箱

村松友視■ 永仁の壷

|

« 辺見庸■ いまここに在ることの恥 | トップページ | 古田十駕■ こぼれ放哉 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 辺見庸■ いまここに在ることの恥 | トップページ | 古田十駕■ こぼれ放哉 »