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2007.05.15

手嶋龍一■ ライオンと蜘蛛の巣

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「米ソの冷戦から最も多く戦略的な恩恵を得たのは日本だった。だが、冷たい戦争で多くを得た者は、同時に多くのものを喪っていたんだ。だが、誰もそのことに気づいてはいない」

アジアの冷戦構造に深く組み込まれた戦後の日本は、同盟国アメリカに自国の安全保障を安んじて委ねてしまった。だがそれゆえに、国際秩序の創造に関わる志を喪い、この分野で一級の人材を育てなかった。そしていま、明日の戦略を担う若い世代の払底に苦しんでいる。それがいまの日本の混迷を招いてはいないか。これが絶壁の家に棲む情報士官の見立てだった。〔…〕

アメリカの主要同盟国は、いずれも異なったかたちで冷戦期を過ごさねばならなかった。〔…〕

こうした冷戦政治の文脈からみれば、日本が寛大な占領と戦後を享受した側面は否めないだろう。だがそれゆえに、われわれは冷たい戦争のひんやりとした空気を真に呼吸することがなかったのかもしれない。〔…〕

過去と真摯に向かいあおうとしない者は、未来を構想する能力をいつしか摩滅させてしまう。冷戦という名の時代を漂流していた日本は、いま過ぎ去った時から一斉射撃を浴びて身を屈めているようにみえる。

――「アランセーターの人」

■ ライオンと蜘蛛の巣|手嶋龍一|幻冬舎|200611月|ISBN9784344012547

★★★★

《キャッチ・コピー》

世界29の都市で見た、歴史的事件の裏側、政治家、スパイたちの素顔を描く。

影なき戦いを彩る人々を静謐な筆致で描いた、29の都市で生起するリアル・ドキュメント。

memo

 世界を駆けるジャーナリストの日々の挿話集。

上掲の「アメリカの主要同盟国は、いずれも異なったかたちで冷戦期を過ごさねばならなかった」の後はこう続く。

「英国は戦勝国とは名ばかりだった。一世帯あたりの配給量は、肉は週わずか六十グラム、卵は一個であった。戦後の大英帝国はかかる困窮に耐えなければならなかった。それほどに国力は疲弊していたのである。

フランスは第二次世界大戦と植民地戦争のふたつながらの敗者だった。それゆえ、「フランスに栄光を」と呼号する誇り高さドゴール将軍を必要としたのであった。

ドイツは祖国を四つに分割されて戦勝国の統治に委ねられた。そしてその東西の分割ラインがそのまま冷戟の最前線となった。同じ民族がふたつの政治体制に切り裂かれた」

*

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