斎藤美奈子■ それってどうなの主義
大きな事件のあった日の翌日は新聞の社説がおもしろい。〔…〕
『朝日』ボケてんな、と思ったのは3月31日だ。『朝日新聞』はこの日、君が代処分事件を取り上げた。都の教育委員会が君が代斉唱時に起立しなかった教職員170名あまりを戒告などの処分にすると決定した、それを受けての内容である。
式を妨害したのならともかく、起立しないからといって処分する。そうまでして国旗を掲げ国歌を歌わせようとするのは、いきすぎを通り越して、なんとも悲しい。
(『朝日新聞』2004年3月31日付社説「起立せずに処分とは」)
「いきすぎを通り越して」という表現も妙だけど、か、悲しい……。そういう問題か?
案の定、『読売』『産経』連合軍に揚げ足をとられ、
夏の甲子園大会でも、プロの歌手が国歌を独唱している。
(『読売新聞』2004年3月31日付社説「甲子園では普通のことなのに」)
そうまでして国旗・国歌を定めようとする論調は、なんとも悲しい。
(『産経新聞』2004年4月1日付「産経抄」)
とやられたからたまらない。なにせ夏の高校野球は朝日新聞社の目玉商品だ。
で、4月2日、焦った『朝日』の社説はますますの迷走を見せる。
<どうしても嫌だという人に無理やり押しつけるのは、民主主義の国の姿として悲し過ぎる。私たちはそう言っているのだ>とほとんど絶叫調で述べた後、社説は意表をつく行動に出る。
しろじに あかく ひのまる そめて
ああ うつくしい にほんの はたは
小学1年生は、みんなこの歌を習う。日の丸を美しいと思う心は、強制して育てるものではない。
(『朝日新聞』2004年4月2日付社説「甲子園とは話が違う」)
とうとう歌っちゃったよ、社説の末尾で。右派勢力にいじめられて壊れちゃったか。
――「左右の安全をたしかめて」
■ それってどうなの主義|斎藤美奈子|白水社|2007年02月|ISBN:9784560027974
★★★
《キャッチ・コピー》
日の丸、戦争、靖国から、皇室報道、学校教育、児童文学、ファッション誌まで…オウム事件後10年間のニッポンの右往左往ぶりをめぐる痛快エッセイ集。
一、「それってどうなの」は違和感の表明である。
一、「それってどうなの」は頭を冷やす氷嚢である。
一、「それってどうなの」は暴走を止めるブレーキである。
一、「それってどうなの」は引き返す勇気である。
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