重松清■ なぎさの媚薬(3)-霧の中のエリカ
ねえ。
なぎさが言った。
あなたには女の子の悲しみがわからないかもね、と笑った。
女の子は、いつだって、誰だって、男の子のまなざしにさらされる。男の子の妄想の中で服を剥ぎ取られて、恥ずかしいところを見られたり触られたり舐められたりして、恥ずかしい姿勢をとらされて、想像するだけで死にたくなるようなことをやらされる。
わかる? あなたに、その悲しみが。妄想の餌食なのよ。
誰がどんな妄想を抱いているのか、外から見るだけではなにもわからない。
まじめそうな男の子や、ふだんは明るく話しかけてくる男の子が、妄想の中ではけだもののようにエリカちゃんを襲って、辱めているかもしれない。
片思いが高じて、エリカちゃんと妄想の中でだけ恋人になって、毎晩毎晩その子とセックスしている男の子もいるかもしれない。
恋人にするだけでは気がすまなくて、召使いにして、なんでも言うことを聞かせて、ひたすら従順にご主人さまに従うエリカちゃんを見て悦んでる男の子だって、いないとはかぎらない。
■ なぎさの媚薬(3)-霧の中のエリカ|重松清|小学館|2006年12月|ISBN:9784093796934
★★
《キャッチ・コピー》
16歳で死んでしまった幼なじみのエリカ。邦彦は「過去に戻れる媚薬」を持つ娼婦・なぎさの力を借り、中学2年の秋の日に帰る。エリカを襲う悲劇の芽を断つために―。エロティックな手法で描ききった感動の青春小説。
《memo》
「週刊ポスト」連載の重松ポルノ。
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