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2007.06.13

狐■ 水曜日は狐の書評 - 日刊ゲンダイ匿名コラム

20070613kitunesuiyoubi

文章のうまさは天からの授かりものか。料理研究家・小林カツ代の本を読むたびにそう思わせられる。

例えば「弱火」というのはどの程度の火加減か。小林はそれを、「弱いけれども、鍋の中の材料の表面がフツ、フツ、フツと静かに、微妙に息をしているような状態のこと」と書く。さらに「とろ火と間違ってはいけない。弱すぎると火は通っていても、ずーんと沈んだ味になる」と補う。

また例えば「煮含める」という言葉がある。煮汁がしみ込むように煮ること。それはだれでも知っているが、小林によれば「煮含めるの『含める』の部分は火を止めてからのこと」だという。「煮含めるには余熱でじんわり味がしみ込んでいく時間も入っている」

本書は、料理をおいしくする基本のわざのあれこれにつき、カツ代流の知恵を込めて語る一冊。分かりやすい。イメージの喚起力か並でない。テレビの料埋番組などで有名な著者ではあるが、文章家として広く知られているとはいえないだろう。それが惜しい。

むろんスタイル(文体)だけではない。あくまでも料理のビギナー向けの本でありながら、おそらく中級や上級の人に対しても、耳をそばだてさせるような知見が盛られているのだ。

ほうれん草をゆでるときは、葉のほうから鍋に入れる。大げさかもしれないが、これはすでに全国的に定着している常識(ほうれん草は茎からゆでる)を逆転する意見ではないか。「茎のほうからだと熱が伝わりにくいが、葉からだと根に向かっていっきに熱が伝わり、不思議なくらい早く、行儀よくゆだる」そうだ。

こういうことを軽んじてはいけない。まことしやかに語られ、いつしか常識と化してしまっているウソは料理の分野にかぎらず、あらゆる世界に存在する。ただ、あらゆる世界に小林カツ代のような、ユーモアと英知にあふれた天性の啓蒙者が存在するわけではない。

――「ユーモアと英知にあふれた天性の書き手」

 

■ 水曜日は狐の書評 - 日刊ゲンダイ匿名コラム|狐|筑摩書房|200401月|文庫|ISBN9784480039224

★★★

《キャッチ・コピー》

お父さんたちが通勤電車で手にする夕刊紙「日刊ゲンダイ」で22年間の長期連載となった〈狐の書評〉。

絶妙な文章、鋭い論理、わずか800字に込められた本への異常な愛情は、読者を興奮させずにはおかない! 文庫オリジナル。

memo

「紹介された本よりも、書評のほうが面白いとのウワサもちらほら」とコピーにある。そこで、小林カツ代著『料理上手のコツ』(大和書房)の書評の全文を掲げた。

*

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