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2007.06.27

瀬川昌治■ 乾杯!ごきげん映画人生

20070627segawakannpai

「大丈夫。俺についてこい!」

志村親分は私の懸念を吹き飛ばすように胸を張った。こうして志村流の早撮り撮影の幕が切って落とされる。

初日は『君ひとすじに』の箱根ロケ。小田急の湯本行き特急を半車両借り切って、愁い探げに車窓を眺めるヒロイン、久保莱穂子の横顔を通路に据えたキャメラが狙う。その後ろに陣取った監督が大声を張りあげた。「用意ッ! スタート!」〔…〕

「ようし! 次」と監督の満足げな声でキャメラが反対側のシートに向けられる。

なんと! そこには『新妻鏡』の池内淳子が、矢張り愁い深げな顔で座っていたのであった。

小田急湯本行き急行の車内。久保莱穂子と池内淳子を左右の座席に座らせて、キャメラを両方に振るだけで『君ひとすじに』と『新妻鏡』のヒロイン撮りは、あっという間に終わった。〔…〕

慌ただしい衣装替えのあと、今度はそれぞれの恋人同士がシートに並んで幸せそうな笑顔で見つめ合うラストシーン。『君ひとすじに』のカップルが終わると、池内・高島の二人が交替して『新妻鏡』のハッピーエンドの撮影となる。

所要時間は15分。撮影終了と同時に電車は小田原に到着した。僅か2時間の間に2本の映画の触りを全部撮り切ったことになる。然もその間、キャメラは通路に固定して一方に向けたままであった。

――第5章 早撮りの巨匠渡辺邦男、志村敏夫

■ 乾杯!ごきげん映画人生|瀬川昌治|清流出版|200701月発売|ISBN9784860291877

★★★

《キャッチ・コピー》

『列車シリーズ』で渥美清、『旅行シリーズ』でフランキー堺の魅力を全開させた名匠。日本を代表する喜劇映画監督の傑作自伝。鶴田浩二vs三國連太郎の確執など伝説のスターたちのとっておきのエピソード満載。

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