田草川弘■ 黒澤明vs.ハリウッド――『トラ・トラ・トラ!』その謎のすべて
プロローグでは、さまざまな資料を付き合わせ、信憑性の高い事実だけを抽出して再構成し、1968年12月24日の午後、エルモが黒澤監督に解任を通告した瞬間を描いた。ここでは同じ場面を、解任の翌月1969年1月、エルモがフォックス本社に提出した正式な報告書の内容をまずそのままの形で紹介し、さらに別の資料によって矛盾点を検証して真実を探ることにしよう。報告書は次のように書かれている。「私」とはエルモ・ウィリアムズのことである。〔…〕
そして私は「とにかくあなたが直ちになすべきことは、自分の健康を守るため、東京に戻ることだ」と再び述べて席を立とうとした。
すると、クロサワは、「山本五十六のシーンだけは自分が撮影して、それ以外を誰か別の人に任せることはできないか」と、再び監督続投に執着を見せた。
わたしは「それは現実には不可能だ」と彼に言った。すると、「監督を続けられないならは、ハラキリをする」とクロサワは言った。
私はそれが彼一流のはったり演技であることを感じ取った。「何をしようと、それはあなたの問題だ。しかし、問題から逃避するために自殺するのは卑怯者がやることだ」と私は言った。
――第六章 《ドキュメント≫ 破滅への秒読み
■ 黒澤明vs.ハリウッド‐『トラ・トラ・トラ!』その謎のすべて|田草川弘|文藝春秋|2006年04月|ISBN:9784163677903
★★★★
《キャッチ・コピー》
幻の大作「虎 虎虎」で黒沢明が描きたかったのは何か? その試みは、何故「解任」という無惨な挫折に終わったのか? アメリカ側の新資料を整理し、「トラ!トラ!トラ!」の謎を解く鍵のかずかずを提供する。
第38回大宅壮一ノンフィクション賞、講談社ノンフィクション賞、受賞。
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