最相葉月■ 星新一――1001話をつくった人
ショートショート1001編達成に対しては、結果的に、なんら文学的な評価を得られなかった。
記録としては残ったが、それだけだった。もはや賞を与えることのほうが失礼にあたると考えたのか、生前の新一に対しては、日本SF作家クラブさえも賞を授与しなかった。
さらに厳しい現実をいうなら、「1001編目の傑作」は幻に終わった。百物語を語り終えたときに現れる物の怪に取り憑かれるように、最後の1編は自分がこれまでに書いたこともないような傑作が書けるかもしれないと新一はひそかに期待していたが、それは錯覚だった。
1001編目にあたる9つのショートショートの原稿を受けとった9名の担当編集者らは、物語の内容をほとんど覚えていなかった。
20年以上前の短編、しかも、創作の過程に編集者が介在できない原稿だからやむをえないとはいえ、各誌で争奪戦を繰り広げようとし、記念パーティまで開催して祝ったものを覚えていないという事実はかなり衝撃的であった。
■ 星新一――1001話をつくった人|最相葉月|新潮社|2007年 03月|ISBN:9784104598021
★★★★
《キャッチ・コピー》
文庫の発行部数は3千万部を超え、いまなお愛読されつづける星新一。1001編のショートショートで「未来」を予見した小説家には封印された「過去」があった。関係者134人への取材と膨大な遺品から謎に満ちた実像に迫る決定版評伝。
《memo》
神戸出身の最相氏、祝!第29回講談社ノンフィクション賞。評伝であるとともに日本SF黎明期を知るのに貴重な資料でもある。
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