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2007.07.13

柴田哲孝■ 日本怪魚伝

20070713shibatanihonnkaigyo

清流である。人間の足跡が印されることを許さないイワナの聖地である。雪解け水が洗うざら瀬や色を持たない淵の中には、堂々たる質と量をもって野性の気配が輪舞し、絶えることはない。

その限りない清爽は、時として意志を持って不浄を拒み、圧倒する。

石抱橋を渡ってすぐ左手を見ると、しっかりとした造りの真新しい小屋が目に入る。監視所である。イワナの密漁を防ぐための、番所である。永久禁漁区ができて魚が増えれば、必ずそれでひと儲けをたくらむ奴がいる。遊び半分に、魚を獲る奴がいる。それが現実なのだ。

自然は、いくら強靭な決意と理を以てしても、その価値を認めない暴力に対し常に無力なのだ。監視所の奥の丘の上に、石碑が建っている。粗削りな岩の記念碑である。そこには力強く、そして温かい字で、次のように刻まれている。

河は眠らない

開高健

石碑は半ば雪に埋もれながら、川の流れを見守っていた。まるで人のように。何かを考えるかのどとく。つくねんと立ちつくしていた。〔…〕

「記念碑のあるあたりに発電用施設の誘致計画があったんです。永久禁漁区やあの川のイワナを無視してね。これも闘いでした」〔…〕

「開高さんが守ってくれたんですよ。銀山湖のイワナをね」

碑は何も語らない。

ただ黙って、暴力と闘い続ける。

――「第4話 河は眠らない ニッコウイワナ」

■ 日本怪魚伝|柴田哲孝|角川学芸出版/角川グループパブリッシング|2007 03月|ISBN9784046213020

★★★

《キャッチ・コピー》

「四万十川のアカメ」「利根川のアオウオ」、「琵琶湖大なまず」、「北ノ岐川のイワナ」、「池田湖の大ウナギ」、「四国・金砂湖のランカー」、「大鳥池のタキタロウ」、「南伊豆のクエ」、「中禅寺湖のレイクトラウト」、「富山のリュウグウノツカイ」、「奥多摩の鯉」、「釧路のイトウ」

釣り師の憧憬と仰望をあつめた怪魚たちの、12編からなる短編集。

*

開高健■オーパ!

パウナル■雨の日の釣師のために

リチャード・ブローティガン■ アメリカの鱒釣り

井伏鱒二■井伏鱒二文集3釣りの楽しみ

長辻象平■忠臣蔵釣客伝

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