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2007.07.20

乙川優三郎■ むこうだんばら亭

20070720otokawamukouzannbara

「時化ると一日中ここから海見てっだ、晴れても漁から帰ると見てんな、沖のほう見てっと何だか冥土へ引きずりこまれそうな気ィして、おっかなくていらんねえだよ、そっでも見てんな」

「あたしは川ばっかり見てきました、松岸から見える海は川よりちっちゃくて気持ちが届かないし、見にゆくこともできませんでしたから」

海は毎日ちがァだよ、波がちがァ、色がちがァ、風がちがァ、潮目も空もみんなちがァだ、だからおもしれえし、おっかねえ、

けどもいっとうおっかねえのは陸にいる自分だな、子供んときから海で渡世してきて、気ィついたら何もねえんだわ、サカナ獲って帰ってきても、だあれもいねえ、倅も嬶も仲間も死んでしまって話もできねえ、このさむしい気持ち、陸で生きてきた人には分がんね、いや誰にも分がんね」

――「磯笛」

■ むこうだんばら亭|乙川優三郎|新潮社|2005 03月|ISBN9784104393022

★★★★

《キャッチ・コピー》

灯が静かに落ちる頃、行き場をなくした男と女が今日もその裏木戸をたたく。港町銚子を舞台に生の厳しさとぬくもりをしっとり描く。

memo

・しっとり、いとおしく、せつない、連作短編集。「磯笛」は傑作。

・ダンバラ波=利根川の流れが銚子口で太平洋とぶつかり、逆巻く大波のこと。

・「いなさ屋」孝助・おたかの前身は、短編「ゆすらうめ」(『椿山』所収)に。

*

乙川優三郎■かずら野

乙川優三郎■芥火

乙川優三郎■冬の標

乙川優三郎■蔓の端々

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