奥野修司■ ナツコ――沖縄密貿易の女王
戦後のある日、翁沛翰を頼って、台湾から砂糖を積んだ船が神戸に着いた。翁はこの砂糖を買い上げ、当時の金で200万円とも300万円ともいわれる大金を稼いだ。これがきっかけで、翁沛翰を中心とする闇商売のグループができたと素蛾は言う。〔…〕
「途中で積荷の盗りあいをして撃ち合いになることもようあった。このあたりは山口組の地場やからな、お互いに摩擦を避けるためにも、船一艘で50万円ぐらい田岡さんに払ったんと違うかな。〔…〕
あの当時は最高紙幣が100円札やろ。砂糖を売ったら何百万円にもなるさかいに金庫なんかかにはいらん。昔のリンゴをいれてた木箱にぎゅうぎゅう詰めて、銀行に持って行くんや。
薬は香港の船が運んできたんやけど、これはぜんぶ今のダイエーの中内さんが買いはったわ。ペニシリンは高いから、盗られんように田岡さんの子分らが警備したんかな。まあ、ダイエーができたのもお父さんのおかげとちゃうやろか」
華僑の中で、翁沛翰は「神戸のマッカーサー」ともいわれ、闇商売で知らぬ者がいないほどの実力者だった。
山口組の田岡一雄をバックにつけ、神戸界隈の華僑の実力者を束ね、彼らに砂糖や薬の荷揚げを指図していたのが翁沛翰だった。
■ ナツコ――沖縄密貿易の女王|奥野修司|文藝春秋|2005年 04月|ISBN:9784163669205
★★★
《キャッチ・コピー》
戦後の1946~1951年、「ケーキ(景気)時代」と呼ばれる沖縄密貿易時代に、混乱、騒擾、欺瞞、陰謀に明け暮れながら、類まれな才覚と器量で颯爽と生きた女親分「ナツコ」を生き生きと蘇らせた評伝ノンフィクション。
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