« 黒井千次■ 老いるということ | トップページ | 加賀乙彦■ 夕映えの人 »

2007.08.02

黒井千次■ 一日 夢の柵

20070802kuroiitiniti

みんな動いているね。

デジタルカメラで、全部一秒間の露出です。

どうして一秒なの。

一秒間に、どんなふうに人が動くかと思って。〔…〕

カメラの方を動かす場合もありますが、それも人の眼が動いているからで。

一秒間か……。長いのか、短いのか。

写真としては長いのですが、人間として考えたら――。

一年、二年より短いものね。〔…〕

一点一点の作品を説明する口調は更に熱を帯びた。大きなポスターの前を過ぎる女性の姿は、措かれた絵と歩く人物とが奇妙に溶け合ってどこまでが絵でどこからが人間なのかわからない。〔…〕

足は映るんですよ。

言われて初めて気がついた。どの人も靴のあたりだけははっきり形が見えた。身体の無い生温かな足が敷石の上を一斉に歩いている。

そうか、足は残るんだ。

思わず膝を叩く気分に見舞われた。

一歩踏んでから、身体が前に出る間も足はまだ地面についているんです。

長身をやおら動かして彼は歩く身振りを大仰に再現してみせた。いかにも靴だけが後ろに残る動作だった。

その時、人間はどこに居るんだろうか。

■ 一日 夢の柵|黒井千次|講談社|2006 01月|ISBN9784062131162

★★★

《キャッチ・コピー》

生々しい奇妙な現実

人が暮らしてゆくという

日常の内奥に差す光と闇を見つめ、生きることの本質と豊穣を描き切る、傑作小説集。

memo

作者60代半ばから70台半ばまでの10年間に書かれた「老い」を綴る12の短編

黒井千次■ 老いるということ

|

« 黒井千次■ 老いるということ | トップページ | 加賀乙彦■ 夕映えの人 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 黒井千次■ 老いるということ | トップページ | 加賀乙彦■ 夕映えの人 »