あさのあつこ■ バッテリー Ⅵ
怖いバッターだ。
それは、生々しい実感だった。打席に立つ者の存在が、巧の五感を生々しく刺激する。バッターという記号ではなく、くっきりとした輪郭を持つ生身の人間がそこにいる。
だから、怖い。
汗を拭い、ミットを見据える。〔…〕
――怖れろ。
寒風の中の言葉を噛みしめる。
キャプテン、こういうことですか。
ボールに軽く唇をつけ、握り締める。バッターに感じた怖れを胸の底まで呑み下す。
呑み下せ。畏怖も怯えも迷いも惑いも、飲み下し溶解させ、ボールに託す力に変える。それが、球を投げるということだ。それができるから、ピッチャーなのだ。
おれは、ピッチャーであり続けたい。
両腕を頭上にかかげ、ミットに視点を定める。全ての力をボール一つに託す。足を踏み出す。手首がしなる。そして球が走る。
■ バッテリー Ⅵ|あさのあつこ|角川書店|2007年 04月|文庫|ISBN:9784043721061
★★
巧と豪を案じる海音寺、天才の門脇に対する感情をもてあます瑞垣、ひたすら巧を求める門脇。そして、巧と豪のバッテリーが選んだ道とは。
いずれは…、だけどその時まで―巧、次の一球をここへ。大人気シリーズ、感動の完結巻。
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