あさのあつこ■ バッテリー
あっ、確かに、ボールを受けた。一瞬、そんな思いが身体をまっすぐにかける。
自分のミットの中にいるのは、ゴム製のボールではなく、もっと別の生きている、体温のあるもの。指を出したら噛みついてくるような小さく猛々しい生き物。そんな奴がいるんだ。豪は、ミットを軽くおさえた。
(やっぱり、あいつすげえんだ)
ため息がもれた。『ボールが生きている』――よく言われるその言葉の本当の意味が今、肉体で理解できた気がした。速いとか、コントロールがいいとか、そんな意味じゃないのだ。
確かに、ここにボールがいると感じさせる力。140グラムにたらないゴムの球に、命みたいなものを感じさせる力。そんな力のこと。
頭の上で、大きく息をはき出す音がした。東谷がしゃがみこむ。
「あかん。コースまでわかってて、バットにかすりもせんかった」
■ バッテリー|あさのあつこ|角川書店|2003年 12月|文庫|ISBN:9784043721016
★★★★
《キャッチ・コピー》
中学入学を目前に控えた春休み、岡山県境の地方都市、新田に引っ越してきた原田巧。天才ピッチャーとしての才能に絶大な自信を持ち、それゆえ時に冷酷なまでに他者を切り捨てる巧の前に、同級生の永倉豪が現れ、彼とバッテリーを組むことを熱望する。巧に対し、豪はミットを構え本気の野球を申し出るが―。
『これは本当に児童書なのか!?』ジャンルを越え、大人も子どもも夢中にさせた話題作。
《memo》
教育画劇版(元本) 1996~2001、角川文庫版 2003~2006、……10,000,000部超え!!
あすかコミックス版 2005~2007もある。
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