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2007.08.03

加賀乙彦■ 夕映えの人

20070803kagayuubae

「時雨……夕暮れ……濡れ落ち葉……わびしい言葉ばかりね」

「そういう言葉が流行する基盤には若さが人生の盛りであって年寄りは落ち目に過ぎないという、若者中心の価値観がある。しかし、斜陽に照り映える物の姿は、立体的でもっとも美しく輝かしいんだ。

調べてみると夕暮れ前の黄ばんだ日光に照らされた、夕映えの美を日本の古典はちゃんと表現している。色うるわしく、はなやかに、きよげなりとね。夕映え、いとめでたしともいう」

「知らなかった」

「苦労を重ねて年齢を踏み、いよいよ薄暗い死が迫る年齢になって、きらびやかに生きる、そういう復権の生き方が求められる時代になった。とくに年寄りが増えてくるにつれて、切実になった。とにかく、

ぼくはわびしい六十代は送りたくない。夕映えの人でありたいよ」と、力んでみて、私はかえって、わびしくなった。

「あなたはまだ現役なんだもの。わびしい人生なんか送ってないわよ」

「さあ、どうだかな」私は、地味で平凡で輝きのない自分の生活を思って、自信なげに言った。

■ 夕映えの人|加賀乙彦|小学館|2002 03月|ISBN9784093872416

★★★★

《キャッチ・コピー》

老いを迎えた主人公たちは何を考えていくのか。「夕映え」とは、あたりが薄暗くなる夕方頃、かえって物の色などがくっきりと美しく見えることをいう。人生の夕映え=老後をいかに有意義に光り輝かせることができるか。主人公たちは示唆に富んだ生き方を示してくれる。

memo

 高齢者のための第1級のエンターテイメント。

高齢の父の死、母の死をめぐる“家族”小説かと思ったが、後半、入院患者の焼死、妻の友人の死、神戸の震災での死などが扱われる。

本書で「感情失禁」という言葉を知った。

** 悼! 阿久悠 1937年~200781

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