田中森一■ 反転――闇社会の守護神と呼ばれて
この平和相銀事件を体験し、私は東京地検特捜部の恐ろしさを知った。事件がどのようにしてつくられるか。いかに検察の思いどおりになるものか、と。捜査に主観はつきものだが、それが最も顕著に表れるのが、東京地検特捜部である。
特捜部では、まず捜査に着手する前に、主要な被疑者や関係者を任意で何回か調べ、部長、副部長、主任が事件の筋書きをつくる。そして、その筋書きを本省である法務省に送る。〔…〕
特捜部と法務省のあいだでこのやりとりを経て、初めてその筋書きに基づいて捜査をはじめる。むろんいくら事前に調べても、事件の真相は実際に捜査してみなければわからない。実際に捜査をはじめてみると、思いもしない事実が出てくるものだ。だが、特捜部では、それを許さない。〔…〕
平和相銀事件がまさにそれだった。岸組の恐喝という予期せぬ事実が発覚しても、それを無視し、筋書きどおりの平和相銀幹部の特別背任で押しとおした。
こうして筋書きどおりに事件を組み立てていくためには、かなりの無理も生じる。調書ひとつとるにも、個々の検事が自由に事情聴取できない。筋書きと大幅に異なったり、筋書きを否定するような供述は調書に取れない。調書には、作成段階で副部長や主任の手が入り、実際の供述とは違ったものになることも多い。だから、上司の意図に沿わない調書をつくっても、必ずボツにされる。
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■ 反転――闇社会の守護神と呼ばれて|田中森一|幻冬舎|2007年 06月|ISBN:9784344013438
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《キャッチ・コピー》
伝説の特捜エース検事はなぜ、「裏」世界の弁護人に転向したのか。法の世界に携わってから38年。検事として、弁護士として見続けてきた日本のひずみや矛盾を綴る。アウトローにしか生きられなかった男の自叙伝。
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