山口治子/中島 茂信■ 瞳さんと
一度しかお目にかからず、追悼文も書かなかった方の中にとても因縁深かった人がいます。山本周五郎さんです。〔…〕
「他の作家は、すべて自分のライバルであり、敵です。もし、山本さんの所に出入りするようになったら、必ずダメになる。殺されてしまいます」
山本さんに可愛がっていただくことを嬉しいと思うか、拒否するか。瞳さんにとって、厳しい選択だったと思います。会いに行けば、いろいろなチャンスが与えられたかもしれません。その反面、もし山本さんにてにをはから指導されるようなことになれば、自分がなくなると考えたようです。〔…〕
小説家を師に持たないときめていた瞳さんは、間門園に行きませんでした。勝負師の勘で、山本さんに会わないことにしたのだと私は思います。
しかし、その後もずっと山本さんに心酔していました。自分に似て、偏屈でへそ曲がりだった山本さんを心から敬服していたようです。〔…〕
山本さんは昭和42年2月14日に亡くなりましたが、瞳さんは葬儀に参列しなかったように記憶しています。それからひと月後、初めて山本さんのご自宅に伺いました。その折、山本さんの奥様に、山本さんが愛用していた将棋盤と駒を形見にいただいています。
*
*
■ 瞳さんと|山口治子/中島 茂信|小学館|2007年06月|ISBN:9784093876124
★★★
《キャッチ・コピー》
「きみは世界でいちばん素敵な夫を持った妻なんだよ」
作家・山口瞳夫人が初めて明かした「本当の瞳さん」。19歳と18歳での出会い、新婚生活、家族の軋轢、作家の妻としての内助から夫婦の葛藤、そして別れ―。作家・山口瞳との49年間を語る。
*
| 固定リンク
コメント