谷口桂子■ 愛の俳句 愛の人生
それでも流転の生活は変わらず、日常にいながら「非日常」に生きていたので、周囲の人に当然のようにある生活がない。〔…〕
三鬼の爪先はすでに着地する日常を失っている。確かな日常性に紛れ込みたいと思っても、もはやその術がない。だから余計に忙しなく動きまわったのだろう。それが性に合っていたこともある。
「私はいつも逃げてばかりいるようです」という一文が、三鬼の随筆の中にある。〔…〕
自分の生きる拠点を手探りで求めるが、現実にも理想にも生きられない。その狭間で魂は浮遊し、安住しない。その結果、永遠に救われない。そういう孤独が、死の晩年に至るまで三鬼を取り巻いていたように思う。
三鬼は俳句で一生を棒に振ったと、しばしば語っていた。だが山口誓子は弔辞で、俳句という棒で一生を貫いたと述べた。それほどに取り組んだのは、唯一の手応えがあったからだろう。神戸時代を経て三鬼の俳句は自らの内面に向かうが、このことを「How to live?」作家から「What is life?」思索作家への転身だと語っている。
――「西東三鬼 型破りな鬼才が希求した平穏な日常」
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■ 愛の俳句 愛の人生|谷口桂子|講談社|2001年 04月|ISBN:9784062100151
★★
《キャッチ・コピー》
永遠を刻んだ言葉。文字で愛を伝えた俳人たち。男女各6人の「愛の俳句」を読み解く。
杉田久女/加藤楸邨/橋本多佳子/中村草田男/三橋鷹女/石田波郷/久保田万太郎/鈴木真砂女/日野草城/鈴木しづ子/西東三鬼/稲垣きくの
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