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2007.09.08

大村彦次郎■ 万太郎 松太郎 正太郎――東京生まれの文人たち

20070908omuramantaro

先年、川口は、

志とたがえる出世春浅く

という句を作ったところ、五歳年下の永井龍男から、「賛沢なことを言いなさんな」と、たしなめられた。お前程度の才能で、今日の名声を得たことを幸せと思え、と叱られているような気がした。

文壇とは鬱陶しいところであった。若年から川口の才気と気力は抜きん出ていたが、その彼でさえ、当時の文壇の風圧には抗しかねる一面があった。とりわけ師の久保田万太郎との確執は運命的とさえいえた。〔…〕

おたがいに東京の浅草生まれで、若い頃からの内輪の間柄と思うだけに遠慮がなく、そのぶんこまかい感情のゆき違いが絶えずあった。〔…〕

いざというときは頼り甲斐もあるが、ふだんは目ざわりな面白くない相手だった。そんな感情もあって、万太郎はときに川口を通俗作家と貶める態度を露骨に見せた。

川口も負けずに万太郎の才能にも、かなり大衆文学的要素があるじゃないか、と内心反撥した。それはともかく、万太郎の俗世への執着ぶりには好い加減嫌悪感を催した〔…〕

この前後の万太郎は芝居の演出が多く、創作はめっきり減った。経済的なこともあって、余計な口出しはできなかったが、創作第一主義の川口は「十の演出も一篇の小説に及ばない」と、万太郎の小説、戯曲のすくなさを暗に欺いた。

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■ 万太郎 松太郎 正太郎――東京生まれの文人たち|大村彦次郎|筑摩書房|2007 07月|ISBN9784480823601

★★★

《キャッチ・コピー》

久保田万太郎、川口松太郎、池波正太郎ほか多くの東京生まれの作家たちの処世のありかたを通して、東京人の気質や感性を詳細に描き出す。

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