小玉武■ 『洋酒天国』とその時代
遂に山本周五郎に会うことになった。夕方、4時以降に間門園に来てほしい、という返事だった。〔…〕
『洋酒天国』 は毎号目を通しているが、編集センスのいい雑誌だと言ってくれた。「山口瞳という人がいるだろう。キミたちの上司かね。今度の直木賞の作品はとてもいい」
と、予期しなかった文学のほうに話が進んでいく。「山口さんは、太宰治を凄く読んだ人だ。『江分利満氏の優雅な生活』は、昭和30年代の太宰治と言ってもいいくらいだね」。
〔…〕
「開高健もいいね。太宰治とチェーホフをよく読んでいる。ぼくは開高健の本を自分のポケットマネーで買って読んでいます。いい本は自分で買う」。
ウイスキーのミルク割りを飲みながら、先生の機嫌はかなりよさそうだった。
「だがね、二人とも、会社にいてはダメだ。サントリーを辞めて、出版社から原稿料の前借りをしながら書く必要がある。作家が給料なんか貰ってちゃダメ。〔…〕」。
会社にもどると、遅い時間だったが、山口瞳が出社していた開高健と何か話し込んでいた。合間をみて、その日の一部始終を報告した
――第9章 山本周五郎と間門園
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■ 『洋酒天国』とその時代|小玉武|筑摩書房|2007年 05月|ISBN:9784480818270
★★★
《キャッチ・コピー》
開高健さんのコピー“「人間」らしくやりたいナ”は、我が社の経営の根底に流れる思想でもある。この書は、開高健さん、山口瞳さん等、異才を放った社員たちが創ったPR誌『洋酒天国』を軸に、高度経済成長に突入する直前の熱気に満ち溢れた時代の姿を描いた、極めて興味深い昭和史の1ページとなっている。
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