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2007.10.15

浅田次郎■ 月島慕情

20071015asadatukishima

「まあ、話はわからんでもねえ」

相生橋の欄干にもたれて煙草を吹かしながら、人買いの卯吉は鼻で嗤った。

「嗤いごとじゃあなかろう。まじめに聞いていなさるのかい」

「ああ、大まじめだぜ。人を食ったこの面ァ、あいにく俺の地顔だ。しかし何だ、身請けの決まった生駒太夫が血相変えて乗りこんできたときにァ、昔の意趣返しで刺し殺されるんじゃねえかと肝を冷やしたぜ」〔…〕

「あたしね、この世にきれいごとなんてひとっつもないんだって、よくわかったの。だったら、あたしがそのきれいごとをこしらえるってのも、悪かないなって思ったのよ」

卯吉は老いた顔を首だけ振り向けて言った。

「ばかだな、おめえは」

「それァ承知さ」

「ばかだが、いい女だぜ」

(あだ)を忘れて、ミノは去って行く卯吉の後ろ姿に頭を下げた。

――「月島慕情」

*

*

■ 月島慕情|浅田次郎|文藝春秋|2007 03月|ISBN9784163257907

★★★★

《キャッチ・コピー》

30を過ぎた吉原の女郎・ミノにふってわいた“幸運”。自分にふさわしい幸せを見つけた彼女の人生の選択とは? “感動無限大”短篇集

memo

 涙腺がゆるむ“泣き節”7編。「月島慕情」「シューシャインボーイ」が逸品。

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