団鬼六■ 枯木に花が
「お前な、めでたく定年退職したんだから、これからお前の本当の人生が始まるんだ。まず、その銀行員らしい顔つきを訂正しろ」〔…〕
「いかん、いかん、昔の会社を思い出すという事は精神衛生的に見て一番いかん事だ。いいか、お前は長年支店長をしていたかも知れんが、今では任を解かれてその船から下船した船長みたいなものだ。
その船がこれからどんな航海に出ようとどこで他船と衝突しょうと、どんな嵐に遭おうともうお前には何の関係もない事だ。船長たる者は何時までも船を愛してちゃいかんという事だ」
耕二が納得のいきかねる表情を見せると、
「〔…〕お前はこれからの余生を如何に過ごすかを考えなければならない」
その余生の過ごし方を俺がお前に教えてやるといってるんだ、といって源五郎はキャッキャッと笑い、耕二の肩をどんとたたいて、
「それは遊ぶという事だ。快楽なしで余生はなしと思え」
と、わめくようにいった。
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■ 枯木に花が|団鬼六|バジリコ|2007年 08月|ISBN:9784862380531
★★★
《キャッチ・コピー》
老いてこそ、愛と自由と快楽を。
人間というものは僅かな期間、生きている間があって、死んでしまえばゴミになるだけだから、諸君、これからは何年生き続けられるかわからないが、その期間、大いに遊ぼうではありませんか。
自らの経験をもとに書きあげた珠玉の人生小説。
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