中島らも■ 異人伝――中島らものやり口
ま、こうやっていろいろイタズラ続けてるうちに、いつかあの世行きってことになるんだろうけどね。おれはけっこう楽しみにしているんだよ。だってね、一生にたった一回しか死なれへんねんで。〔…〕
だから自分の死こそは覚醒した感覚でしっかりと体験したいね。痛かろうが苦しかろうが、そんなこたどうでもいいんだ。死ねば苦痛は消えるんだからね。
問題は死んだあとだ。どうなるのか、何かが待っているのか、それともいないのか。
ほんとに光のトンネルを抜けると花畑があって、死んだ自分の血族がおれを待っているのか。臨死体験者は皆同じことを言うが、おれは信じてない。断末魔の一瞬の幻覚だ。〔…〕
痛くて無惨な思いのまま死なないように、脳が最後の大サービスで幻覚を見せてくれるシステムがDNAに組み込まれてるんや。実際に待っているのは「無」。
おれは、そう思っているのだが、一方で別な考えも持っている。〔…〕
「地球生命体の総合意識」みたいなものがあって、成層圏内から地下何十キロくらいまでの分厚さで地球全体を包んでいる。個体生命は死ねば肉体から放たれて、その集合意識に帰っていく。「個」から解放される。新しい生命はその集合体から個体に移る。
――「寝言は寝てから――。」
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■ 異人伝――中島らものやり口|中島らも|講談社|2007年 06月|文庫|ISBN:9784062757621
★★★
《キャッチ・コピー》
2004年7月に52歳で亡くなった著者が、死の直前に人生をふり返り、酒とクスリ、社会と家族、娯楽作家の業、そして自らの「死」と「生きること」を直感的に語る。死ぬのも怖くない。貧乏も怖くない。ただ愛が怖い。中島らも最後のメッセージ。
《memo》
元本はKKベストセラーズから2004年06月に発売。死の一月前に語りおろしによる自伝を刊行していたことになる。
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