山下武■ 人の読まない本を読む――赤耀館読書漫録
上野の旧帝国図書館時代、学術的でないという理由で未整理のまま放置された大正・昭和初期の図書群があった。乙部図書と呼ばれる通俗文芸物、パンフレット類がそれ。
上野から引き継いだ国会図書館でも日録すら作られず未整理のまま長らく放置されていたこれらの乙部図書につき、僕が「出版ニュース」誌上で早期整理の必要を訴えたのは1989年7月のことだった。〔…〕
その後、昭和初期(戦前・戦中)の分までカード採集を終えた(但し、日録は未作成)と聞き、知人の館員B氏を通じて見学を申し入れ、3月2日の午後、同館を訪れた。〔…〕
僅か一時間余りの「見学」だったが、相当面白い本が眼についた。手帖に控えた中からその若干を挙げておく。
▼田辺惜堂「日蓮かマルクスか』(昭3・大修館書店)▼寿美緑雨『妖婦五人女』(昭2・春江堂)▼我妻大陸(梅原北明の別名)『蒋介石を狙ふ女』(昭14・紫文閣)▼加島夏子『モダンガールの文がら』(昭3・大文館書店)▼井東憲『働く街』(昭18・教材社)▼佐倉啄二『艶色極東地帯』(昭6・白鳳社)▼ワットソン供述/エドウィン・ムーズ筆記『殺人結婚』相馬直胤訳(昭5・日本書院)▼守田有『同性愛の研究』(昭6・人生創造祉)▼米田華紅『満蒙太平記』(昭10・日本書院)▼小野金次郎『回天浪士団組』(昭17・室戸書院)▼金丸直利『接客読本』(昭13・料理の友杜)等々……。
――「乙部図書の整理状況を見る」
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■ 人の読まない本を読む――赤耀館読書漫録|山下武|本の友社|2005年 04月|ISBN:9784894394841
★★★
《キャッチ・コピー》
天邪鬼の本領発揮!あまり読まれない作家・作品ばかりを意固地に紹介。本当の本好きに贈る、本物の読書案内。数百万部を売るようなベストセラーはすべて対象外。『週刊読書人』の連載コラムを一冊に。
《memo》
国立国会図書館HPに<乙部図書について>があり、以下例示。
明治末から大正にかけて人気を博した『立川文庫』。女性解放運動で知られる平塚雷鳥の著書のうち大正初期のもの。昭和初期の様々な新語、外来語を紹介した『超モダン用語辞典』。太平洋戦争時のものには、『大東亜戦に輝く美談』、『鬼畜米国の正体』など、時局を反映した図書。
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