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2007.11.01

高井有一■ 夢か現か

20071101takaiyumeka

伊藤信吉氏の最晩年の詩集「老世紀界隈で」のなかの一篇に「そそくさ師走」がある。多い年には20枚を超えた“忌中欠礼の葉書が、今年はまだ来ない、とうたってゐる。

近しい人、

中くらい親しい人が。

止め処なく、

忌中欠礼はがきになつちまって。

数えてみたつて。

もう、

来るもんか、死者が絶えたんだ。

――伊藤さんは96歳まで生きた。周りの人にみんな死なれてしまった寂しさはむろんあったらうが、それをめんめんと訴へたりはしないあたりが伊藤さんの面目だらう。

私は伊藤さんと、浅いながらかなりいお付合ひがあった。人生には農繁期と農閑期があります、といふのが伊藤さんの口癖であった。今は農閑期だから、かうやって遊んでゐるんです、と愉しきうに水割りのグラスをあけてゐた。

長寿が必ずしも仕合せとは言へない今の時勢だが、伊藤さんのやうに生きられればいいのだな、と思ふ。むろん、私なんかには至難の業に違ひないが。

――「身近な生と死」

*

*

■ 夢か現か|高井有一|筑摩書房|2006 12月|ISBN9784480814838

★★★

《キャッチ・コピー》

研ぎ澄まされた文章で綴られた一章一章は、あるときはしみじみと、あるときは粛然と、読者の胸に迫ってくる。物事の本質を深く見つめ続けてきた作家の随想集。

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