内田樹■ 狼少年のパラドクス――ウチダ式教育再生論
大学がなくなることの損失をもっと真剣に考えた方がいいと思う。特に地方の大学の場合、地域社会は大学と物心両面で深いかかわりがある。〔…〕
大学は地域社会の重要な構成要素であり、簡単になくすべきではないという私の主張には杉野課長も同意を示してくれた。
「大学って入っている学生のためのものだって思われてしまうんですけど、全国を出張して回ると、大学のある街と大学のない街ってすぐにわかるんです。何ともいえない趣のある街と商売だけの街は違う。〔…〕
大学って床の間だと思いませんか。まず第一にあまり役に立たない。学生は役に立っていると思ってるかも知れないけど、周りから見ると役立たないと。でも、大学があって学生を含めて大学人がその街に存在しているというだけで、街の品格が変わってくる。そういうことが実は大学の大きな効用なのではないか。〔…〕
でも、正直言うと、床の間にさえならないような格の大学も増えてきている。これは困ったもんだと思います。『さすがに大学の先生ってちょっと変わっていますね』と言われるくらいの大学人が集うような大学であってほしい」。
――「文部科学省訪問記」
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■ 狼少年のパラドクス――ウチダ式教育再生論|内田樹|朝日新聞社|2007年 02月|ISBN:9784023303775
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《キャッチ・コピー》
政府の「教育再生会議」には任せておけない--独特の発想と軽妙な文章でファンの多い著者の教育論をまとめた一冊。学力低下から教育格差、大学の倒産、私立小学校まで、ニッポンの教育の現状を独自の感性で鋭くえぐる。
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