中島美代子■ らも――中島らもとの三十五年
ふっこは、周囲の人たちによく言っていたという。
「おっちゃんは家に帰ると酒を飲むから帰したくない」
「ミーさんはだらしないから、おっちゃんが可哀想や」
もちろん、ふっこが心底、らもの身体を心配していたのは間違いない。私は、らもがふっこに囲われている状態を見ても、らもは、簡単に独占したり、支配したりできないのに、と結構、醒めて見ていた。
人は人を独り占めすることなんてできないよ。
ふっこに対してどこか同情の気持ちがあった。彼女が19歳のときに、らもがうっかりちょっかいを出して、いい加減なことして、それで悩んだ末にふっこは、身を引いて東京に行ってしまった。
順番というのは残酷で、私が先に、らもと出会って、結婚して、子供を産んだ。ふっこがどんなにらもを想っても、らもと結婚したいと願っても、私がいる限り妻の座にはつけない。叶わぬ想いを抱えているふっこが気の毒だった。
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■ らも――中島らもとの三十五年|中島美代子|集英社|2007年 07月|ISBN:9784087753813
★★★
《キャッチ・コピー》
2004年、泥酔して階段から転落、52歳で急逝した中島らも。作家、ミュージシャン、役者、多彩な顔をもつ天才と半生をともに生きたベスト・パートナーが語る、不世出の異才のすべて。
《memo》
クスリやサケに溺れた男のすべてを許容するエエトコノコである妻はもしかしたら最初から最後まで彼を勘違いしたままではなかったか。
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