中野翠■ この世には二種類の人間がいる
「その時チエが言った言葉が忘れられないね。何て言ったと思う? 『お皿の裏は女の命』って言ったのよー。
お皿の裏までちゃんとキレイにするかどうかで女の値打ちが決まるんだって。お母さんがそう言ったんだって。それ聞いた時、一瞬、ゲッ、イヤなことを言うと思ったよ。くだらないと思ったよ。『女の命』なあんてね。クサイよね。
それなのに、その言葉が妙に忘れられないのよー。頭の中にこびりついちゃったのよー」〔…〕
この話を聞いた瞬間、私も高校時代の石川さんとまったく同じ気持になった。〔…〕呪縛された。感染した。意外な感染力。大げさではなく、今や食器洗いのたびに、その言葉が頭をよぎるのだ。
ちょっと鬱陶しい感じもしてきたので、他の女友だちのMちゃんにこの話をして伝染してやった。まるで「不幸の手紙」みたいに。Mちゃんは私がその話をした瞬間、「ギクリ!」なあんて言って怯えた。まんまと感染した様子だった。
――「それは皿の裏を気にする人としない人だ」
*
*
■ この世には二種類の人間がいる|中野翠|文藝春秋|2007年 03月|ISBN:9784163689708
★★
《キャッチ・コピー》
あなた自身も、隣のあの人にも、上司やライバルにも、必ず「思い当たるフシ」があるはず! 思わず膝を打つ、画期的キメツケ人間二分法。50の項目で人間の「根本」に迫る傑作エッセイ集。
| 固定リンク
コメント